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作品と批評

本展では武蔵野美術大学大学院 彫刻コース所属の作家7名による新作が出品され、芸術文化政策コース所属の学生によって批評が執筆されました。本ページは、その出展作品の写真と批評文のアーカイブです。

劉 櫻 Liu Ying

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《有物》《無物250×250×70(cm) 鏡面ステンレス鋼、セラミック

 批評:岡部 由紀 Okabe Yuki

 現代は物が溢れ、簡単に食べ物や服が手に入る。若い人々はより新しい物を求め、古い物には興味を示さない。劉は伝統文化を尊重しないその若い人々に不満を持っている。

 本作はそんな我々の生活と『紅楼夢』に出てくる登場人物たちの生活を重ねている。

 『紅楼夢』とは18世紀中頃に書かれた『三国志演義』や『西遊記』、『水滸伝』と並ぶ中国四大古典の一つで、中国では日本の『源氏物語』のように親しまれている作品である。この文学作品は“情”をテーマとあり、人生観、家族観、宗教観、そして中国社会の伝統なども細かく描いている。

 劉はこの『紅楼夢』からインスピレーションを受け、現代の社会問題と照らし合わせた作品を制作し続けている。

 『紅楼夢』の中に「本来無一物」という禅語に触れる場面がある。これは、「万物は空(くう)であり、執着すべきものではない」という意味で、物に執着しても無意味であることを指す。新しい物、例えば化粧品や最新の科学技術などに執着するばかりで、心や伝統文化を重んじないことは問題視するべきなのである。

 貴族の生活の象徴として、明朝時代の中国の伝統的な建築物をったステンレス鋼は磨かれ、鏡のようになっている。照明の光を反射させて輝く作品表面に鑑賞者が映り、昔の建築物と現在の自分の姿が同時に存在する空間が生まれる。そこで考えてみてほしい。自分自身、自らの心と対話をしたうえでどのように姿が映っているだろうか。

​Photo by Ken Kato

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