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作品と批評

本展では武蔵野美術大学大学院 彫刻コース所属の作家7名による新作が出品され、芸術文化政策コース所属の学生によって批評が執筆されました。本ページは、その出展作品の写真と批評文のアーカイブです。

関根 夏望 Sekine Natsumi

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《protect-ing》  40×15×10(cm) ブロンズ、真鍮

 批評:島田 芽生 Shimada Mei

 形態の知れないもの、脆く、どこか儚さをはらんだ表現は、次の瞬間にはその姿形を失っているのではないか、そんな事を考えさせるのだが実際はひどく重く、そして硬い。素材であるブロンズの性質たるものを弄び、時に自然の秩序に挑戦する。しかしその表現は、どこか心地よく詩的である。「ブロンズに取り憑かれている」と言いのけるが、むしろ主導権は関根の手にある。膨大な工程を経て、ある種間接的に具現化されていく作意は、素材そのものの持つ美点を内包してはいない。私は私であり、素材は対象にすぎないため、相互作用を認めることは出来ないのだ。扱うその手は愛情に満ちているのだが、あくまで境界線を譲らず、冷徹に素材と向き合う、そんな姿勢を保ち続けてきた。

 そんな関根がついにブロンズと手を組んだ、そう言わざるを得ないのが本作である。これまでの作品が、内情を知る余地の残されたものであったのに対し、本作ではそれを許さない。一層の静寂を誘う棘を纏ったその佇まいは、近づくなと言わんばかりである。まさに、ブロンズの強堅さを身に纏った関根自身をそこに見い出すことができるのだ。

 しかし、生物が棘を持つ場合、多くの場合その果たす役割は「攻撃」ではない。身を守るための「防御」である。本作における「棘」は、自身の立場の弱さを自覚した上で、移り変わる時代の在り方に迎合しない意志を守り抜くために兼ね備えられた、関根の術そのものなのではないだろうか。

 芯の強さは不器用さを孕んでおり、凛としたその姿は美しい。

 一本の薔薇をも彷彿とさせるのだ。 

​Photo by Ken Kato

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