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作品と批評

本展では武蔵野美術大学大学院 彫刻コース所属の作家7名による新作が出品され、芸術文化政策コース所属の学生によって批評が執筆されました。本ページは、その出展作品の写真と批評文のアーカイブです。

生 威 Sei I

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​Photo by Ken Kato

《刑の木》 70×70×207(cm)、朴、アルミ

 批評:孫 亜君 Sun Yajun

 

「美は、痛みのように人を突き刺す*。」トーマス・マン

 

 かつて、中世キリスト教徒に贖罪のため、または悲願を願って、自分自身に鞭打ちながら通りを練り歩く苦行者がいた。一方、現代人は自分の求める美を叶えるため、痛みに耐えながら耳にピアスホールを開ける。時代に関わらず、人には身体を痛めつけることで、自らの精神と美を高めようとする共通意識があるようだ。

 生(セイ)の彫刻作品は目にした者に、恐怖や不安を与え、強烈な痛みの姿をイメージさせるだろう。容赦なく刻まれた木の外側は、切り開かれた生々しい傷のように見受けられる。内側が彫り込まれることで、内部が外部にさらされるといった構造に見られ、覗き穴を通して意識の奥深くに入り込むような体感が可能となるのだ。

 極度の痛みを体験し、感覚を奪われることによって、身体から解放され、「真の幸福」を得らえるかという疑問を抱えつつ、生(セイ)は彫刻を制作し続ける。<苦痛>より<快楽>を追求する現代人にとって、想像するのは難しいだろう。だが、痛みでしか表現できない美意識もあるのではないか。本作は作品の内部に入り込む体験で知覚に刺激的なイメージを与え、痛みの「美」として露出させ提示しつつ、我々が再認識するように導いてくれる。

 

*トーマス・マン『ブッデンブローグ家の人々』松浦憲作訳、講談社、1976、p.573。

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